JIS盤用VCBの保守と更新 （第22回:投入後すぐに遮断する事例）

各社のVCB取扱説明書やカタログを見ますと、投入状態や開放状態を比較した詳しい機構図等が掲載されていますが、機構全体は結構複雑に構成されており、一目でその機構動作の全てを理解することは困難です。しかも、その構成はメーカー毎に大きく異なっており、こうした図を見て、投入不具合が起きる過程を理解するのは全く無理と感じられるかもしれません。しかし、基本的には、一度大きなバネに蓄勢して、キャッチて止めておいた遮断のためのエネルギーを、トリップコイルに与えた命令で、キャッチを外すことで、バネを開放させて、そのエネルギーで真空バルブを開放させ、電流を遮断するという基本原理は全て同じものとなります。従って、投入不具合を起こす原因とその対策も全社共通して考えることができます。

投入不具合は、冬季によく発生します。定期検査の前の状態では、ＪＩＳ盤全体に通電されており、ドアは閉められていますので、室温は結構高くなっており、グリースは固化しにくい状況ですが、定期検査がはじまりますと、通電はストップし、ドアは開放されて、冷たい外気が箱体の中に入ってきますと、室温は急激に下がり、グリースは、固化しやすい状況となります。定期検査に要する１～２時間後に再通電するために、ＶＣＢを投入しようとするとき、機構部の重要なグリースは固化している可能性が高く、投入不具合が起きやすい状況となっているのです。

投入操作した際に、機構は確かに動作して、動作音が確認でき、瞬間的に「投入」の表示が出ながら、即遮断してしまうので、結果的に投入できないという事象が投入不具合の代表例です。各社から販売されるＶＣＢの機構は各社異なった構造に見えますが、乱暴な言い方ですが、VCBの機構は、基本原理的に西部劇でよく見るピストルと構造が似ています。どういうことかというと、撃鉄を起こす動作が、投入動作に該当し、引き金を引いて弾が飛び出すのが遮断動作に該当します。撃鉄を起こすと、ばねに力が蓄えられ、引き金につけられたキャッチによって引き起こされた位置で止まります。引き金を引くと、キャッチが外れ、ばねの力で、撃鉄が弾の薬きょうをたたき、火薬の力で、弾が飛び出すのです。下図に示すゴムピストルで言えば、輪ゴムをキャッチに掛けて引き延ばす動作が、投入になり、引き金を引いて、キャッチを外して、輪ゴムが前方に飛び出すことが遮断になるわけです。

遮断させるとき時は、トリップコイルが動作して、引き金を引き、キャッチが外れることで、ばねを開放させます。この引き金を止めているピンに使われているグリースが固化すると、引き金を引く時は、指の力が大きいので、遮断動作はするのですが、引き金から指を放しても、グリースが固化しているので、引き金が元に戻らない、つまり引き金が引かれたままの状態となってしまうのです。引き金が引かれたままの状態で、撃鉄を起こしても、キャッチは外れているので、すぐに元の位置に戻ってしまいます。つまり即遮断してしまう訳で、この場合は、引き金のピンに基油をつけて、スムーズに動くようにするか、強引に引き金を手で戻してやるしかありません。実際のＶＣＢでもこの引き金に相当する部品（レバー）を支えるピンに油を差してスムーズに回転するように調整すれば直ります。それでも直らない時は、レバー（引き金）を元の位置に戻してやれば、撃鉄を起こして止めることができます。ヘアードライヤーなどで、機構を温めてやって、固化したグリースをやわらかくするのも一つの手段です。グリースが健全に動作して、引き金がスムーズに元の位置に戻っていればキャッチは正常に動作するので、投入しますので、このような問題は発生しないのです。

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